認知行動療法とは

 認知行動療法は、うつ病、不安症、強迫症、心的外傷後ストレス障害、適応障害、その他の治療法として科学的に有効性が実証されている心理療法です。もともとは、行動療法と認知療法という異なった形態の治療法でしたが、研究が進むにつれて両者は統合され、現在の認知行動療法という形になっています。

 年代的に先に現れた行動療法は、その名前の通り、行動の変容を中心にすえた治療法です。行動療法では、不適応行動というのは、ある状況(刺激)と特定の行動(反応)とが結びついた結果であると考えます。そうした刺激と反応の結びつき(学習)は、それを身につけた時点では役立つものであったのでしょうが、今となっては自らの行動をしばり、自由を制限するもの、つまり不適応行動となっているのです。
 こうしたことから、行動療法では、適応的な行動の再学習を促していくことに主眼が置かれます。たとえば高所恐怖症の治療では、実際に階段を一段ずつ上っていく練習をするといったことが行われます。

 一方、認知療法では、私たちの気分や行動を左右するのはそこで起こっていること自体ではなく、それをどのように受け止めたかという「認知」の仕方であるという点に着目し、こうした認知を現実に即したものへと修正していくことに主眼が置かれます。「認知」という言葉はあまり耳慣れないものですが、要は、私たちの考え方や受け止め方を意味しています。
 認知療法は、当初、うつ病の治療法として考案されました。うつ病の患者さんには共通して、自分自身を否定的にとらえ、身の周りで起こることを批判的に解釈し、将来を悲観的にみるという認知のゆがみがみられることから、そうしたかたよった認知を修正していくことに治療の重点が置かれました。

 このように当初は別々に考案された治療法でしたが、行動的なアプローと認知的なアプローチは互いに排斥しあうものでなく、相補的なものであることが認識されるようになり、現在の認知行動療法へと統合されていくことになりました。


認知、情動、身体、行動の相互作用システム

 よく知られた例ですが、コップに半分ほど残った水を見て、「まだ半分もある」と笑顔を作る人もいれば、「もう半分しかない」と不安になる人もいます。コップの中の水の量は同じであっても、それをどう受け止めるかによって、そのときの気分や感情、そしてそこでの行動や身体的な反応すら違ってきます。

 たとえば、ちょっとしたことがあってある人に苦手意識を抱いたとしましょう。そうすると、その人とはできるだけ顔を合わさないようにする、というように行動が変わってきます。もし顔を合わせるようなことがあっても、絶対に目は合わせないかもしれません。

 すると、そうした行動はますます苦手意識を高めことになり、その人のことを思い浮かべるだけで心臓がドキドキして緊張してしまうようなことになるかもしれません。

 こうしたなかで、思い切って自分の方から笑顔で挨拶するようにしてみると、相手も挨拶を返してくれたりして、苦手意識が薄れるようなこともあります。そして、以前はその人と出会うかもしれないと考えるだけで緊張してしまっていたのが、そうした不安も起こらなくなるでしょう。

 このように、私たちの考え方、気分や感情、身体的な反応、行動は、相互に影響し合っています。
 不安やうつに落ち込んでいるときは、この気分さえなんとか良くなればと願うものです。しかし、気分というものは、簡単にどうこうできるものではありません。それができるようなら、とっくの昔に不安やうつから抜け出ることができていたはずです。

 そこで認知行動療法では、気分は認知や行動と深く結びついていることに注目し、考え方や行動を変えていくことで、結果として気分の改善を図るという実際的な方法をとります。


認知行動療法の特徴

 こうした認知行動療法の特徴として、以下のような点をあげることができます。

問題解決に主眼を置いた、短期の治療法です。

認知行動療法では、問題の原因を探って過去に目を向けることより、どのような考え方(認知)や行動が問題を生み出すことになっているのかを検討し、それを修正していくことに取り組みます。今現在の具体的な問題に焦点を合わせるので、治療に要する面接回数は6~15回前後という比較的短い期間ですみます。

科学的に検証された標準的な治療の進め方が、明確に示されています。

認知行動療法では、障害に応じた標準的な面接手順が明確に示されています。各セッションをどのように進めるのか、また全体としてどのように展開していくのかということについて、実証的な研究に基づいたモデルが提示されています。治療面接では、そうしたモデルに基に、それぞれの方に沿った治療ガイドラインについて十分な説明をさせていただきますので、安心して治療を受けることができます。

治療は、カウンセラーとの協同作業で進みます。

治療はカウンセラーまかせにしておけばいいというものではありません。それは、あなたとカウンセラーとの協同作業なのです。カウンセラーは認知行動療法について専門的な知識と技能を持っていますが、あなたの問題について一番くわしいのはあなたご自身です。ですから、治療へのあなたの積極的な参加が、カウンセリングを効果的にすすめていく上でとても重要な意味を持っています。

面接の間に実行していただく課題を提案しながら進めていきます。

治療は面接時間のなかだけで終わるものではありません。面接室では安定しておれるようになったところで、実際の生活の中へとその効果が広がっていかないのでは治療の意味がありません。ですから、普段の生活で実行していただく課題をカウンセラーの方から提案させていただくことになります。もちろん、どのようなことを課題とするかは、ご一緒に考えていきます。
こうした課題に真剣に取り組むか否かで治療の進み具合が大きく異なってくるということが、これまでの研究で明らかにされています。